MMAの暴れ馬

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北京五輪金メダル・石井慧が引退 約14年のプロ格闘家生活で体が悲鳴「ここが潮時かな」と決断

 MMAファイターの石井慧(37)が、現役を引退していたことが明らかになった。2008年北京五輪柔道男子100キロ超級金メダリストの輝かしい実績を引っ提げ、09年大みそかにMMAデビューしてから約14年でプロ格闘家生活にピリオドを打った。取材に応じた石井は、引退に至った理由を告白。近年はクロアチアに本拠地を移し欧州を中心に活躍していた無頼派の男はなぜ、リングを去る決断を下したのか。
 金メダリストが人知れずオープンフィンガーグローブを脱いでいた。米テキサス州から国際電話で取材に応じた石井は、照れ隠しか声色を変え「タドコロです。石井いわく『引退する』と言っていて、『引退後は福岡に住んで細々とアルバイトをしたい』と言っています」と明かした。

 五輪柔道男子100キロ超級金メダルという偉業を成し遂げ、2009年大みそか吉田秀彦戦でMMAデビュー。この試合は判定負けを喫したが、その後実戦を重ねると13年大みそかには〝野獣〟藤田和之を破り、プロ初タイトルとなるIGF王座を獲得した。
 ヘビー級で「世界最強」を目指し、エメリヤーエンコ・ヒョードル(ロシア)やミルコ・クロコップクロアチア)、ジェロム・レ・バンナ(フランス)といった名だたる強豪と拳を交えた。
 17年にはさらなる進化を目指してクロアチアに拠点を移してミルコに師事。欧州に主戦場を移した。21~23年には「打倒・京太郎」を掲げて立ち技格闘技「K―1」に参戦し、22年からはプロボクシングのリングにも上がった。

 だが、その裏で体は悲鳴を上げていた。古傷の首や腰、ヒザの負傷に加えて昨年は肋骨も痛め、重度の帯状疱疹(たいじょうほうしん)にも悩まされた。石井は「去年3月の京太郎選手との試合を終えた後、ヒゲを剃ったんです。そこから一気に体の調子が悪くなった。ケガが続いて体調も悪くなって…。しかも、なかなか状況が良くならなかった。それで『ここが潮時かな』って思いました」と振り返る。

 半年以上、練習も行っておらず、引退試合の開催は「しないです。何であんな痛い思いをまたしなきゃいけないんですか?」と否定。昨年8月18日の「PFL8」(ニューヨーク州マジソンスクエア・ガーデン・ザ・シアター)で判定負けしたダニーロマルケス(ブラジル)戦がラストマッチとなった。

 現在の生活については「長い間海外生活だったので、身の回りの整理に時間がかかっている状況です。あとは銃のライセンスを取りました」。師匠のミルコにも報告したところ「お前〝引退詐欺〟するつもりだろ」と言われたという。

 今後は周辺の整理がつき次第帰国し「一番住みやすい」と感じている福岡を拠点にする予定だ。「そこでお花屋さんでアルバイトをしようと思っているんです。花の名前や育て方の勉強ができるじゃないですか。だから福岡に引っ越したらアルバイト雑誌を買って面接を受けるつもりです」
 もちろん、自身を形成した柔道界に恩返しをしたい気持ちがある。石井は「僕にできることがあれば…。子供への指導のような、底辺の拡大に少しでも貢献できればと思っております」と神妙に話すと、「あ、東スポさんでも柔道の解説とかで仕事があればぜひ!」と、さっそく売り込みをかけた。
 最後に痛めているヒザが右なのか左なのか問うと「それは言えないですよ。次やる時に〝相手〟に狙われちゃうでしょ。だから言えないです」とちゃかして笑った。リング上だけでなく破天荒なライフスタイルで何かと注目を集めた男は、次なる人生のステージでも話題を振りまいてくれそうだ。

 ☆いしい・さとし 1986年12月19日生まれ。大阪・茨木市出身。2008年北京五輪柔道男子100キロ超級で金メダルを獲得。国士舘大卒業後の09年大みそか吉田秀彦戦でMMAデビュー。IGF、SBCヘビー、HEAT総合ルールヘビー級王座などを獲得。プロでの戦績はMMAが25勝13敗、キックボクシングが3勝1敗、ボクシングは1勝1分け。181センチ。